おれが、人生サイアクで最高の男に出逢ったのは
17になったばかりの、嵐の夜だった。
「なァ、おい・・・ありゃどう見たって死んでるって」
混濁した意識の遥か彼方から声が聞こえた
それは、天から降ってくるような暖かな光にも似ていた
だからおれは
聞き覚えもないのに、闇の中で聴こえたその声をただひたすら懐かしく感じていたんだ―――・・・・・・
ああ、そうか・・・
おれは死んだのか
じゃあ、今聞こえた声は天使の声ってことになるのだろうか?
「暗くてよく見えねェだけだ。もし生きてたらどうすんだよ、後味悪いじゃねェか」
―――なんだ?
それにしちゃ随分とガラが悪いな・・・
まさかここは天国じゃないのか?
でもおれ地獄に落ちるようなこと何かしたっけ?
悪さどころかまだ海賊として冒険の1つもしてないっていうのに
まったくツイてねェな・・・
それにしても何でこんなに寒いんだろう
それにあちこち体が痛む
どうして指先1つ、まったく動かせないんだ?
冷たい
何で・・・
ここは
天国でも地獄でも、ない・・・?
そうだ
ここは
ああ・・・
おれはあの時―――
―――バシャ!
ぞくりとするような冷たい海水を顔に浴びて、おれは朦朧とした意識の中で漸く自分の置かれている状況を理解した。
ここは紛れもなく―――海の上だ。
そしておれは壊れた船の残骸に力なくしがみついているだけの漂流者にすぎなかった。
先程からおれの頭上で聞こえる声は、当たり前だが天使でも何でもなくて偶々通りかかった船乗りの声なのだろう。
考えるまでもなく天使の声など聞いたこともないのだ。
懐かしいも何もあったもんじゃない。
いや、今はそんなことより
ああ、良かった・・・おれは助かったのだ。
不吉な会話を聞いた気がしたが、きっと気のせいだろう。
大体助ける気がないのなら船を停めたりはしないはずだ―――
「後味悪いも何も別におれ達があの船をぶっ壊したわけじゃねェじゃん。
サイクロンだろ、自然現象だ、しぜんげんしょー!」
「あのな、そういう問題じゃなくてだな」
「それにしてもおれの言うとおりに針路変えて良かっただろ?」
「確かにあんたの気まぐれで助かったようなもんだけどな。
それよりどーするんだ?あの哀れなおにーさんは」
「そーだな、んじゃ、まずは聞いてみるか!お―――い!あんた生きてるかー!?
生きてたら『生きてます、助けてください』って返事しろ」
あァ?
ちょっと待て
マジでこいつらふざけてんのか?
さっきから聞いてりゃまともな会話してないぞ?
冗談じゃねェ・・・
こっちは本気で死にかけてるってのに何が『生きてます、助けてください』だ
「ホラ、やっぱり死んでるじゃねェか」
「まァどっちでもいーけどな、正直なトコ」
この・・・なんて冷酷な奴らだ
こんなふざけた連中の前でこのまま死んでたまるか
おれは意識を集中させて、かろうじて動かせる左手でピストルに手を伸ばすと、思い通りにならない指先で精一杯引き金をひいた。
夜の海に1発の銃声が響き渡る―――
「あぶね!」
「オイオイ、なんて元気な死人だよ」
―――だからまだおれは死んでねえって・・・
「なんだ、生きてたよ。よし、あとは任せたぞ!」
「なんで、おれ」
「さっきシャワー浴びちゃったからさ~おれ、もう今日は濡れたくねェの」
んなこたァ、どうでもいいから・・・
さっさ・・・と・・・助けやがれ―――・・・
「こういう時だけ船長命令とか言うんじゃねェよ」
「おお!さすが副船長!その通りだ、これは逆らうことの出来ない船長命令だ!」
助ける気があるのかないのかさっぱり判らない
サイアクだ・・・
何て、サイアクな誕生日なんだ―――・・・
「そんじゃ、助けた後はあんたに任せたからな」
「おれじゃムリだろ、だっておれ医者じゃねェもん」
「そーゆうヘリクツを言うんじゃない・・・ったく、ホントあんたって人は」
ちきしょう・・・
絶対おまえら、怨んでやるからな―・・・
おれは、高らかに笑う男の声を最後に暗く冷たい海の中へゆっくりと・・・呪いの言葉と共に沈んでいった。
そう、これがおれとあの人、赤髪のシャンクスとその片腕・ベックマン副船長との最初の出逢いだった。
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